第14話 繰り返す者たち

「ハーニルを出発したのはいいが、次どこに向かうか決めていなかったな」

ハーニルの街を出発した俺たちは特に向かう場所も決めていなかったので、道なりに街道を歩いていた。

「スぅーイー!」

「ガウ!!」

リンはスイに乗ってはしゃいでいる。
俺たちもスイにお近づきになろうといろいろと試してみたが、リン以外には見向きもしてくれない。

「リンはいいよなぁ、楽ちんで」

「ラルフもどこかで魔物とか見つけて仲良くなればいいんだよ!
そうすれば乗れるしもっと賑やかになるよ!」

「人間に心を開いてくれる魔物なんてそうそういないって」

「そっかぁ、残念だねぇ。
じゃあじゃあ魔族になったファイスなら仲良くなれる魔物とかいるんじゃないの?」

「私か?
ゾンビになったはいいが、あいにく魔族に関することには疎くてね。
どこかに仲間になってくれる魔物でもいれば、私も戦いやすくなるのかもしれないが」

「ゾンビって私達の世界だと付き従うほうが多いのよねぇ、ヴァンパイアとかの手下って感じ」

「アオイの世界でもそうなのか・・・できることなら勇ましい馬にでも乗ってみたいのだがな」

「アンデットで馬となると・・・首なし騎士のデュラハンとかかしら?」

「デュラハンかぁ! 昔聞いたことはあるな。
なかなか強そうだけど、首がなくなるのは勘弁かな。
そういうアオイは何かパートナーにしたい魔物とかいるかい?」

「私?
私は魔物っていうより精霊とかのほうがいいかなぁ。
この世界にも精霊っているの?」

「ああ、もちろんいるさ。
だが心が清い人とか自然と深いかかわりのある者の前にしか姿を現さないらしいから、出会うのはなかなか難しいかもしれないな」

「そっかぁ。
でももし会えたら友達になりたいな!」

「アオイって年齢の割に結構大人っぽい感じがしてたけど、案外子供なところもあるんだね」

「何よラルフ! 私が精霊と仲良くなりたいってのがそんなに子供っぽいの!?」

「別にそういう意味じゃないさ」

「まぁまぁ二人とも。
私は年相応の女の子らしくて可愛いと思うけどな!
アオイもラルフもそれからリンもまだまだ若いんだしさ、色々背負うものがあって大変だろうけど
もっとはしゃいだりしていいんだぞ?」

「なんかファイスってばおじさん臭ーい!」

「おじさんとは失礼な!
せめてお兄さんにしてくれないか」

「お兄さんっていうにはちょっと肌の張りがない気がするわね」

「ゾンビなんだから仕方ないだろ!
私だってついこの間まではそれはもうピチピチの肌で王都では結構モテモテだったんだぞ!?」

「それはなんか嘘くさーい」

「まったくお前たちは・・・」

俺たちが談笑しながら歩いていると、小奇麗な街が見えてきた。

「あれは何の街だろう?」

地図を確認すると、そこはリーカクの街だとわかった。
リーカクはラントリールが少し大きく魔族との交流も盛んな街らしい。

「何か勇者たちの影響がないか心配だな」

俺たちはリーカクの街に立ち寄ることにした。
街の中は特に荒れた風でもなく、外から見た印象と同じだった。
何か怪しいことがなかったか調査をするために俺は、街の入り口にいた女の人に声をかけた。

「ようこそ! リーカクの街へ!」

「こんにちは!
あの、この村に勇者を名乗る三人組が来たりしていませんでしたか?」

「ようこそ! リーカクの街へ!」

「それはさっき聞いたので知ってます。
・・・俺の質問に答えてもらってもいいですか?」

「ようこそ! リーカクの街へ!」

俺が何を聞いても同じ言葉を繰り返すだけで、一向に質問に答えてくれなかった。

「全然話を聞いてくれない。
言葉は通じてるはずなんだけどな」

俺たちは手分けして他の人たちにも話しかけてみた。

「そこのぼく、この街で何か変わったことはなかったかい?」

「わーい!!」

「この街について教えてもらえるかな?」

「わーい!!」

「・・・お名前教えてくれるかな?」

「わーい!!」

街の中を走り回っている男の子に声をかけたが、同じ返事しか返ってこなかった。
試しに一緒に走っている女の子にも話しかけたが『キャハハ!』としか話さず一切話を聞いてくれなかった。
話しかければその場で立ち止まってはくれるが、話が終わると俺のことなどまるで見えていないような様子で
再び広場をぐるぐると走り始めた。

明らかにおかしいと思いつつ、一旦街の入り口に戻るとアオイがが帰ってきていた。

「アオイのほうはどうだった?」

「私のほうは全然ダメ。
道具屋に行ってみたんだけど、『いらっしゃい! 今日は何のようだい?』
以外道具に関することしか話してくれないのよあのおばさん、マニュアル人間って感じ」

「俺の村のミザリーおばさんだったら、商売より先にまず世間話をするくらいなのに・・・
ところでファイスとリンは?」

「確か二人とも街の奥のほうに行ったはずだけど・・・」

「ラルフー!! アオイー!!」

遠くからファイスとリンが、複数人に追われながらこちらに走ってきた。

「二人ともどうしたの!?」

「話はあとだ! 一旦街の外に逃げよう!!」

「ラルフ! 早く逃げよう!」

「わかった!」

二人の言う通り街の外に出た瞬間
それまで鬼の形相で追いかけてきた人たちがピタリと立ち止まり何もなかったかのように去っていった。

「どうやら街の外までは追ってこないみたいだね。
ところで二人とも何かあったの?」

「それが、あたいが街の人に話しかけた瞬間急に『キャーーー!! 魔族が街に入ってきたわー!!』って」

「私のほうも同じだ、話しかけた瞬間急に叫ばれてな。
そしたら急に人が集まってきて追いかけられたってわけだ」

「どうやら魔族が話しかけるとそれだけでトラブルになるみたいだね。
まさかこんなにも魔族を警戒している街だったなんて・・・情報が間違っていたのかな?」

「・・・それは違うぜ兄ちゃんたち」

「誰!?」

話しかけられた方向に振り向くと、初老の男の人がいた。

「あなたは一体?」

「俺はリーカクで防具屋を営んでいたガントという者だ」

「防具屋のあなたがなぜ街の外に?」

「お前さんたちもあの街に入ったならわかっただろ?
皆おんなじことしか言わなくなっちまってよ、あんなところにいたら俺まで気が狂っちまう。
元々は魔族も人も出入りする活気のあるいい街だったんだがな・・・」

「どうして街がこんな風になったのか理由を教えてもらえますか?」

「ああ、いいぜ。
あれは数日前のことなんだが、俺はいつものように防具に必要な素材を近くの山で集めて街に帰ってきたんだ。
そしたら王都の兵士らしき集団が街から出ていくところでな、不気味に感じた俺はしばらく様子を見て俺の店に帰ったんだが。
なぜか見慣れない奴が店番していてな、『お前は誰だ?』って聞いても『いらっしゃい! 今日は何のようだい?』ってのと防具の話以外何も答えてくれねぇんだ」

「それって私が話しかけた道具屋のおばさんと同じだわ・・・」

「そうだろうな、道具屋だろうが何だろうがみんな同じ事しか言わなくなっちまって・・・まるで皆何かに操られているような感じでな。
あまりにも気味が悪くてあの手この手で違う反応をしてくれないかと試してみたんだがまったく成果がなくてな。
今は昼の間は街の外をほっつき歩いて、夜は宿屋で寝泊まりしてるってわけさ」

「やっぱりこの街は何か変だね。
ちなみにガントさん、勇者を名乗る三人組がこの街にきたりはしていませんでしたか?

「勇者? 知らねぇなそんな奴ら」

「だとすると、その兵士達が怪しそうだね。
ってことは王都が関係している、そして決まった言葉しか話さない村人・・・あっ、もしかして!!」

俺は前に国王の部屋から持ってきた『村人の常識』の本のことを思い出し改めて最初から読み返してみた。
リーカクの街で会った人々の行動と発言が、本に書かれている村人の立ち振る舞いについての内容と見事に一致しているのに気づいたとき。
得体のしれない恐怖が全身を駆け巡り、指先から血の気引いていくのを感じた。

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