第9話 セルリタの魔王様

村を出発した俺たちはまず、リンのいたブコの村を目指し北へ移動した。
ブコ村はラントリールからさほど離れてはいないため、日が暮れるころには着くことが出来た。

「ここがあたいの村、だよ」

「これは・・・ラントリールとは比べ物にならないほど酷い」

「コウイチ達はこんな惨いことを・・・」

「人間の村からは金品を奪ったが、魔族の村からは命を奪うのか・・・」

ブコの村、正確にはブコの村があったところはかつて村があったとは思えないほど何も残っていなかった。
焼け焦げた家の残骸が辺りに散らばっているだけだった。
俺たちは皆驚きを隠せなかった。

「ラルフ、ちょっといいかい?
あたい小さくてもいいからここにお墓を建てたいんだ」

「俺たちも手伝うよ」

「ありがとう」

俺たちは辺りに落ちていた木片を使い小さなお墓を建てた。

「父ちゃん、母ちゃん、村の皆。
この旅が終わったらまた戻ってくるから待っててね」

俺たちはブコの村を後にした。
その後リンの案内に従って魔王上を目指すべくさらに北へ向かった。
流石の勇者たちも最初から魔王に挑もうとするはずもなく遭遇することは無かった。
数日歩いたのち、無事城に着いた。

「王都の城と比べるとさすがに怪しい雰囲気が漂ってるなぁ」

魔王城という名がふさわしい城の前には、門番のガーゴイルが目を光らせていた。

「お前たち何の用だ?」

俺たちに気づいたガーゴイルが話しかけてきた。

「あたいたちは魔王様に大事な話があってここまで来たんだ。
通してくれないかい?」

「お前はゴブリンだからよいが、そっちの子供二人は人間だろう。
人間をここから先に通すわけにはいかない」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!
勇者や人間の国王のせいで世界が危ないんだ!」

「何? 勇者と国王だと・・・そこで待っていろ」

「魔王様から許可が出た。
くれぐれも失礼の無いようにな」

城の中へとガーゴイルが入って行きしばらく経って、俺たちを招き入れた。
この短期間に似たような形で、魔族と人間の城に入るなんて思いもしなかった。

薄暗い部屋に入り奥の王座に目をやると、フードを被り顔を隠した人影があった。

「お前たちよく来たな。
我が魔王だ、お前たちのようなものが来るのではないかと待っておったぞ」

魔王様の声は部屋全体に響いた。

「待っていた? ということは今どのようなことが起きているのか知っているんですか?」

魔王様が現状を把握しているならば話が早いと思い俺は質問を投げかけた。

「異世界からきた勇者を名乗る三人組が暴れていることは把握している。
我の部下も何人か被害に合ったからな。
ガーゴイルから勇者について知っているものが現れたと伝え聞いたので、お主らを通したのだ。
しかし、国王に関しては我は知らぬ、詳しく教えてくれぬか?」

「実は国王が・・・」

魔王様に王都であったことを話した。

「人間の王が我ら魔族と人間を争わせるためにキマイラを操っておるだと!?
馬鹿な! いくらなんでも人間にそんなことが・・・
このまま野放しにしておくのはあまりにも危険すぎる」

「アム・・・アムラウス国王はただ、遊んでるつもりなんです」

「遊びでこの世界を混乱させようとされるのを黙ってみているわけにはいかんな。
魔王軍でも出来る限りの対処をしよう、あくまで民間人には被害が出ないようにな。
そこでお主らにも協力してもらいたいのだがよいか?」

「もちろんです! 俺たちも奴らに抵抗する力が欲しくて魔王様のところに来たのですから!」

国王の時とは違う展開に心底安心した。

「それは心強い、だが勇者共に対抗するにはまず人間であるお主らが魔力を扱えるようにならなければいけないな。
これを使うが良い」

魔王様は懐からペンダントを取り出した。

「これは?」

「これは”魔使いのペンダント”というものだ。
首からかけて身につけておけば人間にも魔力を扱うことが出来る代物だ」

「そんな便利なものが!?
じゃあこれを使えば俺にも魔法が!」

「残念ながら、すぐに魔法を使うことはできない。
人間という種族は簡単に魔法を扱える身体の構造になっていないからな。
勇者共や国王は例外中の例外だ。
だからこのペンダントがあろうとも魔力の扱いに慣れるまでは魔法を使うのは難しいだろう」

「そんな・・・悠長なことは言ってられないのに・・・!」

「そう気を落とすではない。
我が自らお主らに稽古をつけてやる。
しばらくすれば魔力の扱いにも慣れるだろう」

「魔王様自らですか? ありがとうございます!」

「うむ、我が見ていないと不安だからな・・・
では、お主ら人間にはこれをやろう」

魔王様は俺とアオイにペンダントを渡した。

「あれ、ファイスさんの分は・・・」

「それにしてもお前たちは本当に変則的なパーティだな。
普通世界を救う勇者とは勇者、戦士、僧侶、魔法使いと相場が決まっているのだがな。
まぁ魔王のところに助けを求めに来るのだから人間二人と魔族二人は妥当だろう。」

「すいません魔王様、今”人間二人と魔族二人”って言いましたよね?
人間三人と魔族二人のはずですが」

「そんなはずは、あぁ・・・そういうことか。
・・・お主ら驚かないでくれ。
『アンチスペル』」

魔王様は呪文を唱えた。
その瞬間ファイスさんの体が光だした。

「うっうぁああああ!!!」

ファイスさんが悲痛の声を上げた。

「ファイスさんに何をするんですか魔王様!?
まさか本当はあなたも敵!?」

「落ち着いてくれ、彼をよく見るんだ」

光が徐々に消えていく。
ファイスさんの方を見ると、肌が青く変色し肉が腐り落ちているゾンビがいた。

「なぜゾンビが!? お前! ファイスさんに何をした!?」

「そんな・・・」

「急にゾンビが現れたぞ!」

「私の身体が腐っている!??!」

俺たちの絶叫が辺りに響いた。

「落ち着け!」

魔王様の声が俺たちの声をかき消し、辺りは静まり返った。

「驚かせて本当に悪かった。
実はな我はその者の幻術を解いたのだ。
お主らの仲間ファイスはな、ゾンビなんだ」

「幻術? ゾンビってどういうことですか!?」

「ファイスよ、お主は自分が死んだことに気づいていなかったのだ」

「私が・・・死んでいた?」

ファイスさん?と思われるゾンビが口を開いた。

「そうだ、大方キマイラと戦った時に不幸にも絶命したんだろう。
だがお主の生に対する執着心が、魔力を引き付けゾンビとして蘇らせたのだ」

「あぁ、あの時か・・・」

「お主の執念が知らず知らずのうちに力を持ち、自らに幻術をかけ生前の姿の幻覚を見せていたのだろう。
ゾンビの幻術といえど、我や高位の魔族でなければ見破れんから今まで誰も気づかなかったのだろう」

「そういえば門番のガーゴイルも俺とアオイだけを見て人間と言っていたような」

「私はもうだめだ・・・ゾンビになってしまった・・・
無意識とはいえ皆を騙していたなんて・・・もうどうしようもない」

ファイスさんがその場に膝をついた後、魔王様がその肩にそっと手を置いた。

「諦めるでない。
お主はラルフを守りたいという強い意志を持っていたからこそ、こうしてゾンビになった今も仲間として一緒にいるのだろう。
また無意識でありながらも幻術を扱ったということは凄いことだぞ!
皆にはお主の力が必要だ! 元人間で今は魔族であるお主は貴重な存在なのだぞ! 自信を持ちなさい!」

「そうだよ! 俺はファイスさんがゾンビだとしても全然気にしないよ!
姿は変わってもファイスさんはファイスさんだよ!」

俺の言葉にアオイもリンも頷いた。

「魔王様、それに皆も・・・本当にありがとう!」

ファイスさんの目に涙がにじんでいるように見えた。

「さぁ! ゆったりはしていられないぞ!
ことは一刻を争う事態だ! 我が出来る限りのことをこれからお前たちに伝える!
付いてきてくれるか?」

俺たちは皆、魔王様の言葉に”はい!”と答えた。

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