第6話 彼らの記念日

静まり返った国王の部屋。
アムラウスが口を開く。

「さっきコウイチ達にかけてる魔法”シンクロ”はキマイラにもかけてるんだ。
コウイチ達は僕があげた服や武器の中に、キマイラは体の中に魔法を施した宝石を仕込んであるんだよ。
この魔法はね、普段はただ五感を共有するだけのものなんだけど、相手を思い浮かべながら”コントロール”と詠唱するとなんと操ることが出来るのさ!」

「この魔法はね魔法を封じ込めた者を身に着けている者と好きな時に相手の五感とシンクロすることが出来るのはもちろんのこと
実は術者の魔力が続く間だけ自由に操ることもできるんだ」

「自由に操る? そんなことが・・・」

「できちゃうんだよね! 僕になら! まぁ魔力の消費が激しいからそんなに長い時間は操れないけどね」

「それでどうするんだ? キマイラを呼んできて僕を殺させるのか?」

「そんなことのために僕の大事な魔力は使えないよ~あまり思い上がらないでよね。
じゃあ君に質問!もし”敵が攻めてきたことが無い平和な街に急に凶暴な魔族が現れたら”どうなると思う?」

「!?・・・お前まさかキマイラを操ってこの街を襲わせようとしているのか!?」

「正解! 僕のキマイラは今王都の周りを散歩中だけど、もし王都で暴れると当然城下町は混乱するよね。
当然人々は恐怖を覚えるだろう、そうすれば魔族と人の間に深い溝が生まれる! 人と魔族の戦いが始まる! 今日が記念すべき日になるんだ!!」

「城下町を魔族に襲わせるだって!? あそこには人がたくさんいるんだぞ! あんなところで暴れられたら・・・」

「多少死人はでるだろうね、でも大きな目標のためには多少の犠牲も必要だよ
それに死人が出れば人々は増々魔族に対して敵対心を抱くだろうね、そして僕は民衆の前でこう宣言するんだ。

『先日異世界からきた勇敢な若者に魔王討伐の旅に出てもらったが、遂に魔王の軍勢が本格的に我らの国に攻めてきた!
これは人と魔族との戦争の始まりだ!』

ってね皆はキマイラが暴れるのを目の当たりにしているから信じるだろうね。
僕は普段イタズラ好きの王様で通ってるけど、非常事態時にしっかりとしてるところをアピールすれば民衆の心をより強くつかむことが出来る!
僕のイタズラさえも作戦のうちってわけ。
民衆の気持ちさえたきつけてしまえばこっちのもの、あとは各地で人と魔族の小競り合いが始まって戦争の始まりはじまりー」

「どういう風に生きていればそんなに恐ろしいことを思いつくんだよ!
人の命を・・・そして人と魔族が今まで築き上げてきた平和をなんだと思ってるんだ!」

「そんなもの僕の夢の前ではとるに足らないものだよ。
僕はこの目で活躍する勇者を見たいんだ! この世界はそれを実現するのに絶好の場所!
そして勇者が魔王を倒した暁には彼らは本物の勇者として民衆から称えられるんだ!
僕自身も彼らをこの世界に呼び皆を導いた勇気ある国王として民衆から歓声を浴びて勇者の一員となるわけだ!
ああなんてすばらしいんだ!」

アムラウスの目は狂気に満ち溢れていた。

「自分の欲望と名声のためだけにこんなことを・・・狂っている・・・本当に狂ってる」

「なんとでも言えば? 君には何ともできないけどね。
じゃあ今から君にはこの特等席で大切にしている平和が崩れる瞬間を見せてあげるね!
せっかく友達になれると思ったのに僕の期待を裏切った罰だよ!!」

「我と共有せし従者キマイラよ! 我の声に耳を傾け身も心もゆだねよ!『コントロール』!」

アムラウスは呪文を唱えると目を瞑り手を動かし始めた
しばらくすると窓の外王都上空に一つの影が現れた。

「やめろよ!! やめてくれ!! このっ!! っ!!」

何とかやめさせようと飛びかかるが謎の力により弾き飛ばされてしまう

「言っておくけど、僕に触れようとしても無駄だよ」

「どうして!! どうしてなんだよ!!」

城の窓から街を見ると、人々が突然のキマイラの襲来に混乱しているのがよく見える。
町中の兵士が束になってかかってもすぐに蹴散らされている。

「わぁキマイラって凄いね! それにしても僕の兵士は弱いなぁ、全く歯が立たないって感じ!
あんなに大勢の人が逃げまどってるよ!
そこを攻撃だ! あ~ああ、家が壊れちゃったね~跡形もないね~」

彼は楽しそうにキマイラを操っている。
その様子は、新しいおもちゃを手に入れて無邪気に遊ぶ子供のようにも見える。

「頼むよ・・・もう、やめてくれよっ!・・・」

声は届くはずもなかった。
村に奴らがやってきたとき僕の目の前で平和が崩れた。
それを再び目の当たりにした僕は今までの”僕”ではなくなっていた。

この瞬間”僕”は”僕”を捨てた。

どれくらいの時間がたったのだろう。
先ほどまで活気で満ち溢れていた町が無残ながれきの山になるころ、アムラウスはようやく目を開けた。
それと同時に、暴れていたキマイラはピタリとその動きを止め空に帰って行った。

「魔物が街を襲うってこんな感じになるんだね! あーあ楽しかった!
君も楽しんでくれたかな?
あれぇ? 目がうつろだよ? 僕の声聞こえてるかな?
まぁいいや、僕は予定通り演説に行ってくるね!部屋もどうぞご自由に!
でもね、本は複製してほかの場所に厳重に保管してあるし、そもそも内容は僕の頭の中にばっちり入ってるから本を燃やすとかしても無駄だよー
持って帰ってもいいけど、君には理解できないような難しい本ばかりだよ?
とは言っても、今の君にはそれすら出来そうには見えないけどね。」

「・・・」

「じゃあね! ラルフ君!」

そう言い残すとアムラウスは部屋を出ていった。

「は・・・はははっ、はははっはははっはははっはははっはははっ!!!!!!」

もう乾いた笑いしか出なかった。
誰もいなくなった部屋で一人、壊れたように笑い続けるしかなかった。

ふと頭が動き出す。ここから出なければ

“俺”は偶然そばにあった『村人の常識』という本を手に取り部屋をでた。

がれきの山となった城下町はをとぼとぼと歩く

「おのれ魔族め! よくも俺の家族を!許さん」

「私の家が・・・家がぁぁあ」

「神様ぁあ! 勇者様ぁどうかどうか憎き魔族を根絶やしにしてくださいぃいい!!」

「国王様はしっかりと我々の事を考えていたんだ! 今は我慢の時だ! 国王様と勇者様を信じよう!」

始めてきたときは笑い声に溢れていた広場はいまや恨みや嘆きの声で溢れていた。
中には国王や勇者をにすがる声も聞こえてくるあたりアムラウスの作戦は成功したんだろう。

しばらく歩くと、街の外れに静かで薄暗い路地裏を見つけた。
ひんやりとした石の床にうずくまる。

「使命も果たせず何もできずに帰る俺をみんなはどう思うのかな。」

俺の呟きが壁に反響し、路地裏の奥の方まで伝わって行った。

「・・・誰かいるの?」

つぶやきの反響が聞こえなくなる辺りで路地裏の奥から俺の声とは明らかに違う女性の声が響いてきた。
後ろを振り向くと、薄汚れた服を着た少女が立っていた。

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